呼吸する力もなく、うら寂しく頼りなくて……ただしきりに友の腕に身を投じたく……奇跡が願われ、奇跡が今にも起こるような気がする……それが実際に起こってくる! 金色の波が、薄暮の中に炎を発し、壁に反射し、瀕死《ひんし》の者を担《かつ》いでる男の肩に反射し、貧しい事物や凡庸《ぼんよう》な人々の上に広がって、すべてが温和になり聖なる栄光を帯びる。それこそまさしく神である。神はその恐ろしいまた優しい腕に抱きしめる、それらの弱い醜い貧しい汚《きたな》い惨《みじ》めな者たちを、靴《くつ》の踵《かかと》のすり切れた虱《しらみ》だらけの従僕を、重々しく窓に押しかけてる無格好なおびえてる顔つきの者どもを、恐怖にさいなまれて黙ってる呆《ぼ》けた人々を――レンブラントが描いてるその憐《あわ》れむべき人類を、束縛された暗い魂の群れを。彼らは何にも知らず、何にもできず、ただ待ち震え嘆き祈るのみである。――しかし主はそこにいる。姿は見えない。けれどもその円光と、人間の上に投射されている光明の影とが、眼に見える……。
 クリストフはふらふらした足取りで、ルーヴル博物館から出た。頭が痛んでいた。もう何にも見えなかった。
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