こなかった。もちろん彼は本能的におぼろげながら知覚していた、音響的形体におけるごとく視覚的形体における諧調《かいちょう》を支配する、同じ法則や、または、生命の両反対の斜面をそそぐ色と音との両河が流れ出る、魂の深い水脈などを。しかし彼はその両斜面のうちの一つしか知らなかった。そして視覚の国においては少しも勝手がわからなかった。それゆえに、光の世界の女王とも言うべき明るい眼をしたフランスの、最も微妙なまたおそらく最も自然な魅力の秘密が、彼の眼には止まらなかった。
 また、たとい絵画にも少し興味をもっていたとしたところで、クリストフはあまりにドイツ人であって、かくも異なったフランスの視覚にたやすく順応することができなかった。新式のドイツ人らは、ゲルマン風の感じ方を排して、印象主義や十八世紀のフランスを熱愛してるとみずから信じており――フランス人よりもそれらをよく理解してるとの確信をもち合わせない時でさえそう信じているけれども、クリストフは、そういう新式のドイツ人ではなかった。彼はおそらく野蛮人であったろう。しかし率直に野蛮人だったのである。ブーシェの小さな薔薇《ばら》色の臀《しり》、ワットー
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