するのであった。
 彼はしばしば食も取らず、数日間だれとも話をせずに、そういう長い散歩をしながら、尽きぬ夢想のうちに浸った。その病的な気分は節食と沈黙とのためにひどく昂進《こうしん》していた。夜は、苦しい眠りや疲労を来たす夢に陥った。幼時を過ごした古い家が、その室が、たえず眼の前に浮かんできた。音楽的|妄想《もうそう》が、しつこく頭につきまとって来た。昼は、心の中にある人々や愛する人々、遠く離れてる人々や死んだ人々と、たえず話をかわした。
 湿っぽい十二月の午後、霜氷は堅くなった芝生《しばふ》を覆い、人家の屋根や灰色の円屋根は霧にぼかされ、細長い屈曲した裸の枝を広げてる樹木は、靄《もや》の中におぼれて、大洋の底の海草に似ていた――その午後、クリストフは前日来|悪寒《おかん》を覚え身体が温まらなかったが、まだよく知らないルーヴル博物館にはいってみた。
 彼はこれまで、大して絵画に心を動かされたことがなかった。内心の世界にあまり気を奪われていたので、色彩と形体との世界をよくとらえることができなかった。色彩や形体は、ただぼんやりした反響をもたらすのみである音楽的共鳴としてしか、彼に働きかけて
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