いだいていたが、その様子をほとんど示しはしなかった。二人は暗々裡《あんあんり》に一致して、音楽会でしか語を交えなかった。彼は一度、学生らの間で彼女に出会った。二人は真面目《まじめ》くさって挨拶《あいさつ》をした。彼女はだれにも彼のことを語らなかった。彼女の魂の奥底には、ある神聖な小さな場所が、何かしら美しい純潔な慰謝的なものが、存在していた。
かくてクリストフは、彼一人の存在によって、彼が存在してるというだけの事実によって、人の心を慰安するような影響を及ぼし始めた。彼はどこへ行っても、知らず知らずに、自分の内部の光明の跡を残した。それに最も気づいていないのは彼自身だった。彼の近くに、同じ家の中に、彼がかつて会いもしなかった多くの人がいたが、彼らはみずから知らずに、彼の有益な光明を次第に受けていた。
数週間前からクリストフは、肉食を断ちまでして倹約しながらも、もう音楽会へ行くだけの金がなかった。そして、屋根裏の自分の室では、今や冬になると、身体が凍えてしまうような気がした。彼はじっと机に向かってることができなかった。そこで降りていって、温《あたた》まるためにパリーの中を歩き回った。
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