った。話をしながらラタン町へ上っていった。彼女は彼の腕を取っていた。彼は彼女を家まで送っていった。しかしその戸口までやって行き、彼女が彼を引き入れるつもりでいると、彼はその誘いの眼つきに気も留めないで、そのまま別れ去ってしまった。しばらく彼女は呆然《ぼうぜん》としたが、次には腹がたった。それから、彼の馬鹿さを考えて笑いこけた。次に自分の室へはいって着物を脱ぎながら、またいらだってきた。そしてついには黙って泣いた。音楽会でふたたび彼に会った時、彼女は気をそこねた冷淡な多少|意固地《いこじ》な様子を見せようとした。しかし、彼があまり善良なお坊ちゃんだったので、その決心も保てなかった。二人はまた話しだした。ただ彼女は、今でも少し遠慮していた。彼の方では、ねんごろにしかしごくていねいに口をきいて、真面目《まじめ》なことや、美しいことや、二人で聴いてる音楽のことや、それが自分にとっては何を意味するかということを、話してきかした。彼女は注意深く耳を傾けて、彼と同じように考えようとつとめた。彼の言葉の意味がわからないこともしばしばだったが、それでもやはり信じていた。クリストフにたいして感謝的な敬意を
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