楽句の断片を思いついてもそれを書くことさえできないような、富裕な音楽愛好家らがあった。彼らはクリストフを呼んで、その苦心の曲を歌ってきかした。
「どうです、いいでしょう!」
 彼らは彼に頼んで、それを展開させ――(そっくり書かせ)――自分の名前で大|書肆《しょし》から出版さした。するともうその楽曲全体を自分の作だと思い込むのであった。クリストフはそういう連中の一人をよく知っていた。世に知名の紳士であって、落ち着きのない大きな身体をし、すぐに彼へ親しい呼びかけをし、彼の腕をとらえたりして、騒々しい感激の辞を浴びせかけ、冗談をささやき、取り留めもないことや厚かましいことをしゃべりたて、それといっしょに、ベートーヴェン、ヴェルレーヌ、オフェンバッハ、イヴェット・ギルベール……などという心酔の叫びを交えた。彼はクリストフに仕事をしてもらったが、金を払うことは閑却していた。食事に招いたり握手をしたりすることで報酬を済ましたつもりでいた。最後にようやく二十フラン送ってきた。クリストフは馬鹿《ばか》げた贅沢《ぜいたく》心を起こして、その金を送り返してしまった。その日彼は、幾何《いくばく》も懐《ふとこ
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