たった。きびしくみずから責めた。腹のことばかり考えてる食い辛棒《しんぼう》だとみずから見なした。が実は彼には腹はほとんどなかった。痩《や》せ犬よりもなおほっそりした腹だった。それでも彼は堅固で、骨格はたくましく、頭脳は常に自由だった。
 彼は明日のことをあまり気にしなかった。その日の金さえあれば平気だった。無一文になると、思い切って本屋回りを始めた。しかしどこにも仕事は見出せなかった。むなしく家へ帰りかけた。その時、先ごろシルヴァン・コーンからダニエル・ヘヒトへ紹介された楽譜店のそばを通りかかって、中にはいって行った。あまり面白くない事情ですでにここへは来たことがあるのを、忘れてしまっていた。ところが第一に眼にとまったのはヘヒトだった。彼は引き返そうとした。しかしもう間に合わなかった。ヘヒトから見られてしまっていた。彼は逃げる様子を見せたくなかった。どう言ってよいかもわからないで、ただヘヒトの方へ進んでいった。なるべく横柄《おうへい》な様子で対抗してやるつもりだった。というのは、ヘヒトは無礼を容赦しない男だと信じていたから。ところがヘヒトは少しもそうでなかった。彼の方へ平然と手を差し出
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