、先刻から大喜びをしてその光景を見ていたシルヴァン・コーンが、彼の腕をとらえ、いっしょに劇場の階段を降りてゆく時に、笑いながら言った。
「だが君は、あの女が彼の情婦だということを知らないのか。」
 クリストフはそれで事情がわかった。してみると、作品が上場されたのは、彼女のためにであって、彼のためにではなかったのだ。ルーサンの意気込み、その出費、取り巻き連中の熱心、などの理由が彼にわかった。彼はシルヴァン・コーンの言葉に耳を傾けて、サント・イグレーヌに関する話を聞いた。彼女は演芸館の歌手であって、通俗な小芝居に出て成功した後、そういう連中の多くの例に漏れず、もっと自分の才能にふさわしい舞台で歌いたいという野心を起こした。そしてルーサンを頼りとして、オペラ座かオペラ・コミック座かへはいりたがっていた。もとよりそれを望んでいたルーサンは、ダヴィデ[#「ダヴィデ」に傍点]上演の機会をとらえて、ほとんどなんらの劇的所作をも要求せず、しかも形体の優美さを十分に発揮させてくれる役を、その新進女優にやらして、彼女の抒情《じょじょう》的天分を、パリーの公衆に安全に見せてやるつもりだった。
 クリストフは
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