内心の情緒の波に自由に没頭し得なかった。その情緒を明確な主題の中に流し込みたがっていた。そして、まだ十分に自己を統御していないし、自己の真相をはっきり知ってもいない、年若な精神にとっては、手にあまる自分の魂を閉じこめるべき任意の限界を定めることは、確かにいいことに違いない。それは思想の流れを導くのに必要な水門である。――不幸にも、クリストフには詩人の素質が欠けていた。彼は伝説や歴史の中から、自分の主題を取って来なければならなかった。
数か月以来彼の心に浮かんでいる幻想のうちには、聖書の種々の幻影が交っていた。――流離中の友として母から贈られた聖書は、彼にとっては夢想の源であった。彼は宗教的な精神においてそれを読みはしなかったけれど、このヘブライのイーリアスともいうべき書物の、精神力もしくはなおよく言えば生命力は、パリーの塵煙《じんえん》によごれた裸の魂を晩に洗うべき泉であった。彼は書物の神聖な意味を気にとめはしなかった。しかし、その中で呼吸される粗野な自然と原始的な個人との息吹《いぶ》きによって、それはやはり彼にとって神聖な書物だった。信仰のうちに併呑《へいどん》された土地、鼓動して
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