視的な便宜主義が享楽的な虚無主義に仕えていた。未来の大利害は現在の利己主義にささげられていた。彼らは軍隊の減員を行なっていた。選挙人の意を迎えるためには祖国の四|肢《し》を断つかもしれなかった。彼らに欠けてるのは知力ではなかった。彼らはなすべきことをよく知っていた。しかしそれを少しもなさなかった。なすには多くの努力がいるからだった。彼らはおのれの生活と国民の生活とを、最少の労力で整えようと欲していた。社会の上下を通じて、できるかぎり快楽を多くして努力を少なくせんとする同一の道徳が支配していた。かかる不道徳な道徳が、多難な政治を導いてゆく唯一の糸であった。そこでは、首領らが無政府の実例を示していた。不統一な政策が一時に十|兎《と》を追って、途中でそれを一つ一つ取り逃がしていた。平和主義の陸軍省と相並んでる好戦的な外交、軍隊を刷新せんがためにかえって破壊してる陸軍大臣、造兵職工らを反乱さしてる海軍大臣、戦争の恐怖を説いてる軍事教官、道楽的な将校、道楽的な裁判官、道楽的な革命者、道楽的な愛国者。一般にわたる政治道徳の堕落であった。各人は国家から、職務や手当や勲位を授かることばかり待っていた。
前へ
次へ
全387ページ中258ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング