》され、檻《おり》の中のみじめな獅子《しし》ほどに愚鈍にされてはいるが、それでもやはり餌食《えじき》にあこがれている。
 しかしクリストフは、年齢と情熱の死滅とのみがもたらしてくれる公平無私な心境には、まだ到達していなかった。彼はコレットの相談者たる役目を、ごく真面目《まじめ》に取ってしまった。彼女は彼に助けを求めたのだったし、彼は彼女が軽率にも危険に身をさらしてるのを見て取った。それで彼はもはや、リュシアン・レヴィー・クールにたいして敵意を隠さなかった。レヴィー・クールの方では最初、クリストフにたいして、完璧《かんぺき》なしかも皮肉な礼節の態度を取っていた。彼もまた敵の様子を探っていた。しかし、恐るべき敵ではないと判断して、それとなく馬鹿にしていた。彼はクリストフから感心されさえすれば、心よく折り合ってゆけるのであった。しかしそれはできない相談だった。彼もよくそれを感じた。なぜならクリストフは考えを隠す術《すべ》を知らなかったから。そこでリュシアン・レヴィー・クールは、単に思想上の抽象的な対抗から、注意深く鉾先《ほこさき》を隠した対人間的な戦いへ、それとなく移っていった。コレットがそ
前へ 次へ
全387ページ中228ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング