しい魂の人に不快をかけないため)――敵を感じて身を護る健全な人の本能、と言ってもいい。
 彼はクリストフと正反対に、皮肉と分解との精神を代表していた。死にかかってる古い社会のうちにあるすべての偉大なもの、すなわち家庭や結婚や宗教や祖国、また芸術においては、すべて男らしいもの、純潔なもの、健全なもの、民衆的なもの、あるいは、思想や感情や偉人や人間のうちにあるあらゆる信念、などをことごとく彼は、やさしく丁重にひそかに攻撃していた。そういう思想の底には、分析の、極度の分析の、機械的な楽しみ、思想そのものを咬《か》み砕かんとする、一種の動物的な欲求、あたかも蛆虫《うじむし》のような本能、があるばかりだった。そしてこの完全な知的|咬噛《こうごう》と相並んで、娘らしい肉感的快楽があった。娘といっても、それは青鞜《せいとう》者流の娘である。なぜなら、彼にあっては、すべてが文学的であり、もしくは文学的たるべきであった。彼にとっては、すべてが文学の材料であった、自分のまた友人の幸運も悪徳もことごとく。彼は小説や戯曲を書いていたが、その中で、両親の私生活、その内密事、友人らの内密事、自分の内密事、女との関
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