のを感ずることができ、自分が交ってるためにその調子が狂ってるのを感ずることができたので、来客らと同じように自分でも自分の態度が気にくわなかった。彼はみずから自分を恨みまた他人を恨んでいた。
 真夜中ごろついに街路に出て一人っきりになると、厭《いや》で厭でたまらなくて、歩いて帰るだけの力がなかった。昔少年名手であったころ、大公爵邸の演奏から帰る途中、幾度もしたがったと同じように、往来のまん中に寝そべってしまいたかった。時とすると、一週間の間五、六フランしかもたないにもかかわらず、その二フランを馬車に費やしてしまうこともあった。早く逃げ出すために急いで馬車に飛び乗るのだった。馬車に運ばれながらがっかりして嘆息していた。家に帰っても寝床の中で、眠りながら嘆息していた……。それから突然、おかしな言葉を思い出して放笑《ふきだ》した。その身振りを真似《まね》て言葉をくり返しながら、自分でもびっくりした。翌日、または数日後、一人で歩き回りながら、にわかに獣のように唸《うな》り出すことがあった。……なぜああいう連中に会いに行くのか? なぜ彼らに会いにまたやって行くのか? 他人と同様に身振りをししかめ顔
前へ 次へ
全387ページ中190ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング