そのうえ、ある軍隊の前衛にいようが後列にいようが、作者はその軍隊の捕虜《ほりょ》であり、その軍隊の思想の捕虜であった。ある者は官学的な信条[#「信条」に傍点]のうちに蟄居《ちっきょ》し、ある者は革命的な信条[#「信条」に傍点]のうちに蟄居していた。そして結局は、いずれにしても同じ目隠しであった。
クリストフの眼を覚《さ》まさせるために、シルヴァン・コーンはまた特殊な芝居へ連れて行こうと言い出した――精練の極致たる芝居へ。そこでは、殺戮《さつりく》、強姦《ごうかん》、狂暴、拷問、えぐり出された両眼、臓腑《ぞうふ》をぬき出された腹など、あまりに開化した選良人らの神経を刺激し、隠れたる野蛮性を満足させるようなものが、見られるのであった。美しい女や当世風の才士などからなる観客――裁判所の息苦しい室の中に午後じゅうはいり込んで、しやべったり笑ったりボンボンをかじったりしながら、破廉恥な裁判を傍聴するのと、同じような奴《やつ》ら――に、それは非常な魅力を及ぼしていた。しかしクリストフは、憤然としてそれを拒んだ。この種の芸術にはいり込めばはいり込むほど、臭気がますますはっきりしてきて、やがて彼を
前へ
次へ
全387ページ中162ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング