れにも劣らず急いでいた。
 ロールヘンは、クリストフとともに別の室へはいった。クリストフはなお躊躇《ちゅうちょ》していた。もう母を抱擁することもないかと思うと、悲痛の情に堪えなかった。いつになったらまた会えるだろう? あんなに年老い、疲れはて、一人ぽっちである。この新しい打撃にまいってしまうかもしれない。自分がいなかったら、どうなるだろう?……しかし、自分がとどまっていて、処刑され、幾年も禁錮されたら、母はどうなるだろう? 母にとってはそれの方が、確かに孤独であり悲惨であるに違いない。たとい遠くにいようともせめて自由であれば、母の助けとなることもできるし、また母の方からやって来ることもできよう。――彼は自分の考えを明らかに見分ける隙《ひま》がなかった。ロールヘンは彼の両手を取り、すぐそばに立って、彼をながめていた。二人の顔はほとんど触れ合っていた。彼女は彼の首に両腕を投げかけて、その口に接吻《せっぷん》した。
「早く、早く!」と彼女はテーブルを指《さ》しながらごく低く言った。
 彼はもう考えようとしなかった。テーブルにすわった。彼女は一冊の出納簿から、赤の方罫《ほうけい》がついてる紙を
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