。踊りはますます活気だってきた。ロールヘンはもはやクリストフに注意を向けていなかった。村のある馬鹿な若者の方へ、頻繁《ひんぱん》に振り向かなければならなかった。それは豪農の息子で、すべての娘たちの争いの的となっていた。クリストフはその競争を面白がった。娘たちはたがいに微笑み合い、また喜んで引っかき合っていた。お坊ちゃんのクリストフは夢中になって見ていた。そしてロールヘンの勝利を願っていた。しかしその勝利が得られると、少し悲しい気がした。それをみずからとがめた。彼はロールヘンを愛していなかったし、彼女が自分の好きな者を愛するのは当然だった。――もちろんそうである。しかしながら、一人ぽっちだという気持は愉快なものではなかった。ここにいるすべての人々は、彼を利用して次に彼を嘲笑《あざわら》うためにしか、彼に興味をつないではしなかったのである。彼は溜息《ためいき》をついた。ロールヘンをながめながら微笑んだ。ロールヘンは、競争者たる他の娘どもを憤らせる喜びで、平素よりはるかに美しくなっていた。彼は帰ろうと思った。もう九時近くだった。町へ帰るには、たっぷり二里ほどは歩かなければならなかった。
 彼
前へ 次へ
全527ページ中491ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング