いかわからなかったし、思ってもぞっとするほどのその出発を、どうしたらやめさせられるかわからなかった。クリストフは、母の蒼《あお》ざめてるはれぼったい顔を、ひそかにながめやっては、悔恨の念に責められた。しかしもう出発の決心を固めたことだし、自分の一生に関することだと知っていたので、悔恨の念からのがれるために、もっと早く出発しておけばよかったと卑怯《ひきょう》にも考えた。
 彼の出発の日は翌々日となった。悲しい差し向かいの時がまた過ぎた。たがいに一言もかわさないで夕食を済ますと、クリストフは自分の室に退いた。そして机の前にすわり、両手に頭をかかえ、なんの仕事もできないで、一人悩んでいた。夜はふけた。もう一時に近かった。とふいに隣室で、物音がした。椅子《いす》がひっくり返った。扉《とびら》が開《あ》いた。シャツ一つの素足の母が、すすり泣きながら彼の首に飛びついてきた。彼女は熱で焼けるようになっていた。息子を抱きしめて、絶望の鳴咽《おえつ》のうちに訴えた。
「発《た》ってはいけません、発ってはいけません。お願いだから、お願いだから! ねえ、発ってはいけません!……私は死にそうです……我慢が、我
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