手当たり次第に読んだ若干の書物。しかしそれだけでも彼にとっては、光明と快活と元気との国、その上に大胆な若い心に適するゴール的高慢さを多少そなえた国、それを想像するには足りるのであった。彼はフランスをそういう国だと信じていた。なぜなら、そう信ずる必要があったし、そうであれかしと心から願っていたから。

 彼は出発の決心をした。――しかし母のために出発することができなかった。
 ルイザはしだいに老いていった。彼女は息子を鐘愛《しょうあい》していた。息子は彼女の喜びのすべてだった。そして彼女は、彼がこの世で最も愛してるもののすべてだった。けれども彼らはたがいに苦しめ合っていた。彼女はクリストフをほとんど理解せず、また理解しようともつとめなかった。ただ彼を愛しようとばかりした。彼女は狭い臆病《おくびょう》なぼんやりした精神を有し、また感心すべき心を、なんとなく人の心を動かし圧迫するような、愛し愛されたいという強い欲求を有していた。彼女は息子《むすこ》を非常な学者だと思って尊敬していたが、彼の天分を窒息させるようなことばかりしていた。彼がこの小さな町に自分のそばに生涯《しょうがい》とどまってるだ
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