フは何にも見なかった。彼は寝台に飛びのって、すぐにぐっすり寝入った。
シュルツは眠らなかった。自分の受けたあらゆる喜びや、友の出発について今から感じてるあらゆる悲しみなどを、一時に考え出していた。二人で言いかわした言葉をまた頭に浮かべていた。自分の寝台のよせかけてある壁の彼方《かなた》に、すぐ近くに、親愛なるクリストフが眠ってることを、考えていた。疲れはててがっかりしぬいていた。散歩の間に冷えて、病気が再発しかけてると感じていた。しかし彼はただ一つのことしか思ってはいなかった。
「彼が発《た》ってしまうまでもちこたえさえすれば!」
そして咳《せ》き込むと、クリストフを起こしはすまいかとびくびくしていた。彼は神にたいする感謝の念で、いっぱいになっていて、老シメオンの今や逝せ給え[#「今や逝せ給え」に傍点](訳者添、今や僕(しもべ)を安全に世を逝(さら)せ給え)という聖歌に基づいて、詩を作りはじめた。……作った詩を書くために、汗まみれになって起き上がった。そして長くテーブルにすわって、ていねいにそれを書き直し、愛情のあふれた捧呈《ほうてい》文をつけ、下部に署名をし、日付と時間とを書き入
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