々にたいして、彼はいかに感謝の念をいだいたことだろう!――クリストフは、自分の歌曲[#「歌曲」に傍点]がシュルツ老人にとってなんであったかを、夢にも知らなかった。それを書いた時の彼自身の感じも、それにたいする老人の生き生きとした感じには及びもつかなかった。彼にとってはそれらの歌は、内部の熔炉《ようろ》から迸《ほとばし》り出た若干の火花にすぎなかった。なお他にも多くの火花が迸り出るに違いなかった。しかしシュルツ老人にとっては、それは一挙に啓示せられた一世界……愛すべき一世界だった。彼の生活はそれによって輝かされたのであった。

 一年前から彼は、大学の職を断念しなければならなかった。ますます不安な健康は、もう彼に講義を許さなかったのである。病気で床についている時、ウォルフ書店からいつものとおりに、音楽書の新刊の小包が届いた。受け取ってみるとこんどのには、クリストフの歌曲集[#「歌曲集」に傍点]がはいっていた。彼は一人きりだった。近親の者もそばにいなかった。わずかの家族は久しい前に死に絶えていた。一人の老婢《ろうひ》にすべての世話をさしていたが、老婦は彼の不健康につけこんで、勝手なことばか
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