使い始めていた。
「それはいい、いい!……(彼は感嘆していた)……すてきだ……恐ろしくすてきなものだ!……だがいったい(彼は驚いてつぶやいていた)どうしたんだ?」
 彼は座席に身を起こし、頭を前方に差し出し、手を耳にかざし、独語をし、満足げに笑い、そしてある珍しい和声《ハーモニー》の箇所になると、唇《くちびる》をなめようとでもするようにちょっと舌を出した。不意の転調に、彼は非常に動かされて、感嘆の一語をもらしながら急に立ち上がり、ピアノのところへ来てクリストフのそばにすわった。クリストフがそこにいることにも気づかないらしかった。彼は音楽のことばかりを念頭においていた。その一曲が済むと、彼は楽譜帳を取り上げ、ページを読み返し始め、それから次々にページを読んでゆきながら、賞賛と驚きとの独語を言いつづけ、あたかも室には自分一人きりであるかのようだった。
「驚いた!……(彼は言っていた)……此奴《こいつ》はどこからこんなものを見つけ出したのかな……。」
 彼は肩でクリストフを押しのけ、みずから数節をひいてみた。ピアノにおける彼の指先は、きわめてやさしくしなやかで軽くみごとだった。クリストフは、
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