をいっしょにコーヒーの中に浸した。
 それきりだった。
 クリストフはがっかりして、立ち上がって帰ろうかとした。しかし長い旅行が無駄《むだ》になることを考えた。そして勇気を振るい起こしながら、自分の作を少しひいてお聞かせしたいと、口ごもりながら申し出た。その一言を聞くや否やハスレルはさえぎった。
「いやいや、僕にはわからないよ。」と彼は愚弄《ぐろう》的な多少侮辱的な皮肉の調子で言った。「それにまた、暇がないからね。」
 クリストフは眼に涙を浮かべた。しかし彼は、自作にたいするハスレルの意見を聞かないうちは、ここから出て行かないとみずから誓っていた。彼は困惑と憤慨との交った調子で言った。
「失礼ですが、あなたは昔、私の作を聞いてくれるとお約束なさいました。私はただそのために、ドイツの奥からやってまいったのです。どうか聞いてください。」
 ハスレルはそういう応対に馴《な》れていなかった。怒《おこ》って顔を赤らめ泣かんばかりになってるその無作法な青年を、彼はながめた。そして面白く思った。彼は懶《ものう》げに肩をそびやかしながら、指でピアノを指し示し、おかしな諦《あきら》めの様子で言った。

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