……。」
 ハスレルは、安楽椅子に深くすわり込み、長い両足を組み合わせ、頤《あご》の高さまで来てる右|膝《ひざ》の上に、痩《や》せた両手を握り合わせていたが、答え返した。
「覚えないね。」
 クリストフは喉《のど》をひきつらしながら、昔面会したことを向こうに思い出させようと試みた。しかしそういう親しい思い出を語ることは、いかなる事情においても彼には困難であった。そして目下の事情においては一つの苦悩であった。彼は文句にまごつき、適当な言葉が見当たらず、馬鹿なことを言っては顔を赤らめた。ハスレルはぼんやりした無関心な眼でじっと見つづけながら、彼を言い渋るままに放《ほう》っておいた。クリストフがようやく話を終えると、ハスレルはあたかも彼がまだ言いつづけるのを待ってるかのように、しばらく黙ったまま膝をゆすっていた。それから言った。
「そう……だがそんな話で若返りはしないね……。」
 そして彼は伸びをした。
 欠伸《あくび》をした後彼は言い添えた。
「……失敬……眠らなかったものだから……昨晩劇場で夜食をしたので……。」
 そしてふたたび欠伸をした。
 クリストフは今話したことについてハスレルか
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