、もし彼女が彼から愛されまいと用心するならば、それは彼女がひそかに彼を愛し始めたからであることを、彼は考え及んだ。無名の手紙はそういう愚かな空想的な考えを彼女に吹き込むほど、好結果をもたらしたのであった。
状況はきわめて困難になるとともに馬鹿げてきて、もうそのままつづくことができなくなった。そのうえまた、リーリ・ラインハルトは口先の大言にもかかわらず、なんら性格の強みをもっていなくて、小都市の暗黙な敵意の前に惑乱してしまった。彼ら夫妻は恥ずかしい口実を設けてもう会うまいとした。
――ラインハルト夫人は加減が悪かった……。ラインハルトは忙しかった……。二人は数日間不在だった……。
下手《へた》な嘘《うそ》ばかりだった。偶然が意地悪くも面白がって面皮をはいでくれるような嘘だった。
クリストフはもっと率直に言った。
「憐《あわ》れな友だちよ、私たちは別れましょう。私たちには力がないのです。」
ラインハルト夫妻は泣いた。――しかし絶交してしまうと、彼らはほっと安堵《あんど》した。
この小都市は勝利を得ることができた。こんどこそクリストフはただ一人となった。彼は最後の一息たる愛情まで
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