ルトは細君といっしょに読んだ、最も熱烈な賞賛の文句しか見出さなかった。
「わからない。」と彼は不思議に思って言った。
「君にはわからないのか、わからないのか……。」とクリストフは叫びながら、手紙を取り上げて、それを彼の眼の前につきつけた。「では君には読み取れないのか。これもやはりブラームス派だというのがわからないのか。」
 その時ようやくラインハルトは、その大学音楽会長が手紙の一行中に、クリストフの歌曲をブラームスのそれと比較してることに気づいた……。クリストフは慨嘆した。
「一人の味方、ついに一人の味方を見出したのだ。……しかもそれを得たかと思うと、もう失ってしまったのだ!……」
 彼はその比較に憤ってた。もしそのままに放っておいたら、彼はすぐに馬鹿な返事を出したかもしれない。もしくは、少し考えてみたら、まったくなんとも答えない方が賢くて雅量があると思ったであろう。が幸いにもラインハルト夫妻は、彼の不機嫌《ふきげん》を面白がりながらも、このうえ馬鹿な真似《まね》をしないようにさした。そして感謝の一言を書かせてしまった。しかし顔をしかめながら書かれたその一言は、冷淡なよそよそしいもので
前へ 次へ
全527ページ中323ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング