なかった。それから少し奥へ行って控室で、彼は文書局の役人に出会った。いつも彼に親愛の様子を見せながら、盛んにおしゃべりをする男だった。ところが、その男が話を避けて急いで通り過ぎたので、彼はびっくりさせられた。が彼はそれらのことにこだわらないで、なお進んでいって案内を求めた。
彼ははいっていった。午餐《ごさん》が終わったところだった。殿下は客間にいた。暖炉を背にして、客たちと話しながら煙草《たばこ》をふかしていた。客のうちにクリストフは、自分の[#「自分の」に傍点]姫を認めた。彼女も煙草をふかしていた。そして肱掛椅子《ひじかけいす》にしどけなく身をよせかけて、まわりを取り巻いてる将校らに声高く話していた。会合はにぎやかだった。皆はすこぶる愉快そうだった。そしてクリストフははいって行きながら、大公爵の幅広い笑い声を聞いた。しかしクリストフの姿が彼の眼にとまると、その笑い声はぴたりとやんだ。彼は一つ唸《うな》り声をたてて、じかにクリストフめがけて大声に浴びせかけた。
「ああ来たな。どの顔でやって来たのか。お前はこのうえ私《わし》を馬鹿にするつもりなのか。お前は実に悪者だ。」
クリストフは
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