だった。自分でも気がつくと身をねじって笑いこけた。しまいには「ちぇッ!」と言いすてて、彼の手から書き抜きを奪い取り、室の隅《すみ》に投げやり、そして言った。
「もうおしまい、休みの時間だわ!……散歩に出かけましょう。」
 彼は彼女の台辞《せりふ》に多少不安を感じて、懸念《けねん》のあまり尋ねた。
「覚えたつもりですか。」
 彼女は確かな様子で答えた。
「大丈夫よ。それにまた、黒坊《くろんぼ》だってついてるんだもの。」
 彼女は帽子を被《かぶ》りに室へ行った。クリストフは待ちながら、ピアノの前にすわって少しばかり和音をひいた。向こうの室から彼女は叫んだ。
「あ、それはなんなの? もっとひいてちょうだい。ほんとにいいこと!」
 彼女は帽子を頭に留めながら駆けて来た。彼はひきつづけた。ひいてしまっても、彼女はもっとつづけるように願った。そして、トリスタン[#「トリスタン」に傍点]の曲についても一杯のチョコレートについても同様にまき散らす、フランス婦人特有の気のきいた短い感嘆の声をたてながら、彼女はうっとりと聞き入っていた。クリストフは笑っていた。ドイツ人の大袈裟《おおげさ》な強調した感嘆の言
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