を吹き払うあの南風が、彼女のうちにも多少感ぜられた。彼女は天分が豊かであった。教養も思慮もなかったけれど、美しいよい物ならば、それをただちに心から感ずることができて、ほんとうに感動するほどだった。そしてすぐそのあとで、にわかに大笑いをした。もとより、彼女は仇《あだ》っぽい女で、瞳《ひとみ》をよく働かせた。よく合わさっていない化粧着の下から、裸の喉《のど》をのぞかしてるのも、少しも不愉快ではなかった。彼女はクリストフの心を迷わせたかったかもしれない。しかしそれはまったく本能からであった。なんらの打算もなかった。笑い、快活に話をし、気兼ねも遠慮もなく、善良なお坊《ぼっ》ちゃんとなりお友だちとなることを、いっそう好んでいた。芝居生活の内幕や、自分のちょっとしたみじめな事柄や、仲間たちのつまらない猜疑《さいぎ》や、彼女に光らせないようにと注意してるゼザベル――(彼女は座頭の女優をきらってゼザベルと綽名《あだな》していた)――の意地悪なことなどを、彼に話してきかした。彼はドイツ人にたいする不平をうち明けた。彼女は手をたたいて面白がり、彼に調子を合わした。彼女は元来善良であって、だれの悪口をも言う
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