声音を聞いた時、しばらくはそうだと信じられなかった……。
「だれだろう、いったいだれだろう?」と彼は半ば口の中でみずから尋ねた。「それでもまさか……。」
 そして、「それでも」それがハムレットだと認め得ざるを得なかった時に、彼は罵声《ばせい》を口走った。幸いにもそばの女は外国人だったからその意味を理解しなかったが、しかし隣りの桟敷《ボックス》の人たちにはよく意味がわかったらしい。黙れという怒った声がすぐに返された。彼は一人で自由にののしるために桟敷《ボックス》の奥に引っ込んだ。彼の憤りは解けなかった。もし彼が偏狭でなかったならば、その六十年代の婦人に青年の服装をして舞台に立たせ、しかもきれいに――少なくとも追従的な眼には――見えさせている、変装の優美さと技巧の芸当に、敬意を表したかもしれなかった。しかし彼はあらゆる芸当を憎み、自然を破るものを憎んでいた。彼の好むところは、女は女であり男は男であることだった。(現代ではいつもそうなってるとは言えない。)ベートーヴェンのレオノーレの幼稚な多少|滑稽《こっけい》な変装でも、彼には不愉快だった。しかしハムレットの変装は、滅法に馬鹿げたものだった
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