るという口実のもとに……。
「思想! それについて一言してみよう。なるほど諸君は思想を理解するような顔つきをしている。……しかしながら、諸君が思想を解しようと解すまいと、どうか、その思想が選んだ形式を尊敬してもらいたい。何よりもまず、音楽は音楽であってほしい、音楽のままであってほしい。」
その上、ドイツの芸術家らが表現と深い思想とにたいして払ったと自称する、この大なる注意は、クリストフの意見によれば、おかしな冗談にすぎなかった。表現だと? 思想だと? そうだ、彼らはそれを至る所に――至る所一様に配置していた。毛織の舞踏靴《ぶとうぐつ》の中にも、ミケランジェロの彫刻の中にと同じく――多くも少なくもなく同等に――思想を見出すのであった。だれの作をも、いかなる作をも、同じ力で演奏していた。要するに、多数の人々の考えでは、音楽の本質は――とクリストフは断言した――音量であり音楽的騒音であった。ドイツでかくも強く感ぜられてる歌唱の快楽は、声音的体操の愉悦にすぎなかった。空気で胸をふくらまし、それを元気に力強く長く調子をつけて吹き出すことが、その主眼であった。――そしてクリストフは、賛辞の代わり
前へ
次へ
全527ページ中140ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング