だいた。彼がそばにいる時には、彼女は彼を気にかけなくてもそれを当然だと思っていた。そして彼がそれを不快に思ってる様子を示しても、許してやっていた。しかしその不快の念があらゆる関係を破るまでに進んだことは、馬鹿げた傲慢《ごうまん》心と恋心よりもいっそう利己的な心とのゆえだと、彼女には思われた。――ユーディットは自分と同じ欠点を他人がもっている場合には、その欠点を許容しなかった。
それでも彼女は、クリストフがなすことや書くものをいっそうの注意で見守《みまも》った。様子にはそれと見せずに、好んで兄にその話をさした。クリストフとともに過ごした一日じゅうの会話を、兄に語らした。その話の合い間に、皮肉な意見をはさんで、一つの滑稽《こっけい》な点をも容赦せずに取り上げ、かくて次第に、クリストフにたいするフランツの感激をさましていった。フランツはそれに気づかなかった。
最初の間、雑誌では万事うまくいった。クリストフはまだ、同人らの凡庸さを洞見《どうけん》していなかった。そして彼らの方は、クリストフが仲間であるから、その天才を認めていた。彼を見出したマンハイムは、彼の書いたものを何一つ読んだことも
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