よりずっと弱いものであり、外部の影響にずっと染《し》みやすい――あまりに染みやすい――ものであるということを、いつも極端から極端へ彼を走らせる熱烈な直覚力の変易性によって、すぐに思い込んでしまった。この民族は本来の弱さと、その途上に積もっていた世界のあらゆる弱さとを、皆になっているのだった。クリストフがおのれの芸術の槓桿《こうかん》をすえるべき支点を見出し得るのは、まだここでではなかった。否彼はこの民族とともに、砂漠《さばく》の砂の中に埋没しかかったのである。
彼はその危険を見て取り、またその危険を冒すだけの自信を感じなかったので、マンハイム家を訪れるのをにわかにやめた。幾度も招かれたが、理由も述べずに断わった。彼はその時までいつも熱心に来たがってばかりいたので、かく急激な変化は人目についた。人々はそれを彼の「風変わりな性質」のゆえだとした。しかしマンハイム家の三人は一人として、ユーディットの美しい眼がそれに関係あることを疑わなかった。そしてこのことは、食卓でロタールとフランツとの揶揄《からかい》の種となった。ユーディットは肩をそびやかしながら、見事な征服でしょうと言った。そして冷や
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