ぞうお》でアーダを憎んでいた。彼は自分の生活から彼女を抹殺《まっさつ》していた。彼にとってはもはや彼女は存在していなかった。
クリストフはアーダから解放されていた。しかし自分自身から解放されてはいなかった。みずから心をそらそうとつとめ、過去の清浄強健な静安さに帰ろうとつとめても、その甲斐《かい》がなかった。人は過去にもどり得るものではない。道は進みつづけなければならない。いかにふり返っても、眼にはいるのはただ、通り過ぎて来た場所が、かつて宿った家の遠い煙が、記憶の靄《もや》の中に、地平線に隠れてゆくばかりで、なんの役にもたたない。そして情熱に駆られた数か月くらい、人を昔の魂から遠く引離すものはない。道は急に曲り、景色は変る。自分のあとに残してゆくものに、最後の別れを告げるようなものである。
クリストフはそれを承認することができなかった。彼は過去に向って腕を差出した。昔の孤独な忍諦《にんてい》の魂を復活させようと固執した。しかしその魂はもはや存在していなかった。情熱がもたらす多くの廃墟《はいきょ》こそ、情熱それ自身よりもずっと危険である。クリストフはもう愛すまいとし、恋愛を――しば
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