そびやかし、微笑み、そしてまた仕事にかかった。
 彼は彼女の手を取り、縫ってる帽子を取り上げた。
「こんなことはよしてくれ、よしてくれ、そして僕に言ってくれよ……。」
 彼女は彼を正面《まとも》にじっと見た、そして待った。クリストフの唇《くちびる》の震えてるのが眼についた。
「君は、」と彼はごく低く言った、「エルンストとアーダとが……。」
 彼女は微笑んだ。
「もとよりだわ!」
 彼は憤激してきっとなった。
「いや、いや、そんなはずはない! 君だってそう思ってるんじゃないだろう。……嘘《うそ》だ、嘘だ!」
 彼女は彼の両肩に手を置いて、笑いこけた。
「あなたは馬鹿ね、ほんとにお馬鹿さんだわ。」
 彼は激しく彼女を揺すった。
「笑うなよ。なぜ笑うんだい? ほんとうだとしたら笑いごとじゃない。君はエルンストを愛してるじゃないか……。」
 彼女は笑いつづけた。そして彼を引寄せながら、接吻《せっぷん》した。彼は我れ知らず、接吻を返した。しかし自分の唇《くちびる》の上に、まだ兄弟の接吻の熱がさめないその唇を感じた時、彼はつと身を引き、彼女の顔を少し押し離した。彼は尋ねた。
「君は知ってたのか? 
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