ン・ミシェルは腹立ちまぎれにいっそう太い声で言いつづけた。
「わしはどんなことをした報《むく》いで、あんな酔漢《よいどれ》を息子に持ったのか! わしのような生活をし、万事に不自由な目を忍んだのも、むだな骨折りだったのか!……だがお前は、お前は彼奴《あいつ》を制することができないというのか。なぜかって、そりゃあお前の役目じゃないか。お前が彼奴を家に引留めさえしたら……。」
ルイザはなお激しく涙を流していた。
「このうえ私を叱《しか》ってくださいますな、私もうたいへん不仕合せですもの。私はできるだけのことはしました。ああ一人でいるとどんなに恐ろしい思いをしていますか、それを察してくださいましたら! いつでも階段にあの人の足音が聞えるような気がします。すると私は扉《とびら》が開くのを待ちます。まああの人はどんな様子で出てくるかしらと考えます。……それを思ってみるだけでも気がふさいできます。」
彼女はすすり泣きに身をふるわしていた。老人は気をもんだ。彼は彼女のそばにやって来、その震えてる両肩に乱れた蒲団《ふとん》をかけてやり、大きな手でその頭をなでてやった。
「さあ、さあ、心配することはな
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