いそうに、」と彼女はたいそう恥ずかしそうにして言った、「坊やはなんて醜いでしょう、なんて醜いでしょう、ほんとにかわいいこと!」
 ジャン・ミシェルは暖炉のそばにもどった。彼は不機嫌な様子で、火をかきたて始めた。しかしその顔に装ってる陰鬱なしかつめらしさは、軽い微笑の影で裏切られていた。
「お前、」と彼は言った、「ねえ、苦にしちゃいけない。まだまだこれから顔付は変わるものだ。それに、醜いったってそれがなんだ? この子に求むることはただ一つきりだ、りっぱな者になってくれということだ。」
 子供は母親の温かい身体に触《さわ》って心が和らいでいた。息を押えて貪《むさぼ》るように乳を吸ってる音が聞えていた。ジャン・ミシェルは椅子《いす》の上で軽く身をそらして、おごそかにくり返した。
「正直な男ほどりっぱなものはない。」
 彼はちょっと黙って、その思想を敷衍《ふえん》したものかどうか考えた。しかしそれ以上言うべきことを見出さなかった。そしてしばらく黙った後、激した調子で言い出した。
「夫がいないとは、どうしたことだ?」
「芝居に行ってるのでしょう。」とルイザはおずおず言った。「下稽古《したげいこ》
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