もってはいなかった。背が低く、蒼《あお》ざめて、虚弱だった。ところがメルキオルとジャン・ミシェルとは二人とも、背が高く、でっぷりして、赤ら顔の、たくましい拳《こぶし》をし、よく食い、よく飲み、笑い事の好きな、騒ぎやの大男だったので、彼女とおかしな対照をなしていた。彼女はまるで彼らに圧倒されてるかと思われた。だれも彼女へはほとんど注意を向けなかったが、それでも彼女はなおいっそう隅《すみ》っこに引込んでばかりいようとしていた。もしメルキオルがやさしい心をもってるのだったら、彼は他のあらゆる利益をうち捨ててルイザの純良な気質を選んだのだとも、考えられないことはなかった。しかし彼は最も浮薄な男だった。で結局、かなりの好男子で、自分でもそれを知らないではなく、またごく見栄坊《みえぼう》で、そのうえ多少の才能もあり、金持ちの娘に眼をつけることもでき、また彼がみずから自慢してたように、中流市民の女弟子のどれかを夢中にならせることさえもできる――たれかいずくんぞ知らんやではあるが――という、彼のような一個の青年が、財産も教育も容色もない賤《いや》しい娘を、しかも向うからもちかけても来なかった娘を、突然
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