地へかけて、ぼーっともやがかかっていまして、その間から方々に、高い山の頂がそびえ立って、きらきらと日に照らされています。
 するうちに、いつのまにか、日の光が隠れてしまって、今まで低い麓《ふもと》の方にしか出たことのないまっ黒な夕立雲が、驚くほど高く空の上に出てきて、むくむくとふくれ広がってきました。
「雷《らい》の神がいよいよやり始めたな」
 そう思って禿鷹《はげたか》は、眼を皿のように見開いてうかがっていました。
 夕立雲はますます大きく濃くなって、見る見る内に空を隠してゆき大粒の雨がぽつりぽつり落ちてきて、天地がまっ暗な闇に包まれてしまいました。
「さあもうじきだぞ」
 そして禿鷹はさらに眼を見張りましたが 岩の[#「見張りましたが 岩の」はママ]影からではよく見えないので、その山の頂の一番高い岩の上に飛び上がって、雨に濡れながら一生懸命になって、どこに雷が落ちるかを見張りました。
 雨はもう大降りになり、天地はなお一層暗くものすごくなり、高い雲の中には雷が鳴り始めました。と思うまに、ぴかっと矢のような光がつっ走って 同時に[#「つっ走って 同時に」はママ]天地もくずるるばかりの音がして……とまでは覚えていましたが、それきり禿鷹《はげたか》はあっというまもなく、息が絶えてしまいました。

 禿鷹が上っていた山こそ国中で一番高い山で、そこに雷《らい》の神が雷を落としたものですから、頂上の岩の上にいた禿鷹は、それに打たれて、黒焦《くろこ》げになって死んでしまったのです。



底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
   1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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