そうなると禿鷹も、山の霊達から聞き出すことはあきらめるほかはありません。それかって、山の神へまた何とか頼みに行くのもしゃくです。はて何かよい工夫《くふう》はあるまいかと、一晩中考えた末、思いついたのは雷《らい》の神のことでした。
「雷の神なら一番高い山を知っているはずだ。がただ聞いたんでは、俺《おれ》の受持ちじゃないと言って教えてくれないかも知れない。これは一つ、雷の神の気短《きみじ》かなのにつけこんで、工夫をめぐらすに限る」
四
禿鷹は翌日、思案《しあん》を定めて、雷の神の岩屋へやって行きました。
「今日はよいお天気のようですが、お休みになるのですか」
「そんなことを聞いてどうするのだ」と雷《らい》の神は破鐘《われがね》のような声で言いました。
「いえ、どうもいたしませんが いつも[#「いたしませんが いつも」はママ]あなたが低い所でばかり雷を鳴らしていらっしゃるので、お疲れになったのじゃないかとおもいまして、へへへ」と禿鷹《はげたか》は変な笑い方をしました。
「何だ、低い所でばかり雷を鳴らしてるから疲れる……」
「私共から見ますと、あなたが低い平地の上にばかり雷を鳴らしていらっしゃるのが、意気地《いくじ》ないような、おかしいような気がします 私共のような[#「気がします 私共のような」はママ]鳥でさえ、高い山の上を飛び廻ってるのですもの、あなたも一つ奮発《ふんぱつ》して、国中で一番高い山の上に雷を落としてみられたら、いかがなものでしょう。それともあなたは、そんなに高い所へは昇れないとおっしゃるのですか」
気の短い雷の神は、それを聞いてもうむかっ腹を立てて、いきなり立ち上がりました。
「よし、それではこれから、国中で一番高い山の上に、大空の上から雷を落としてみせるぞ」
「それは結構でございますな。謹《つつし》んで拝見《はいけん》いたしましょう」
雷の神がうまく策略《さくりゃく》にのったので、禿鷹はしめたと思って微笑《ほほえ》みました。雷が落ちるのを見定《みさだ》めれば、どれが一番高い山だかすぐにわかるし、またそれで、今まで嘘をついた山の霊を、罰するわけにもなるのです。
五
そこで禿鷹《はげたか》は、ある高い山の上に飛び上がって、その頂《いただき》の岩の影から、四方を隈《くま》なくうかがい始めました。
谷間から遠く低く平
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