いつのまにか、家をぬけ出して其処に行く。昼も夜も目が離せない。
夜中の冷気にさわってか、お上さんは感冒にかかり、気管支から肺尖をいため、高熱が続いた。それでもやはり、家人のすきをねらっては、家をぬけ出すことをやめない。仕方なしに、座敷牢みたいなものを拵え、出入口に丈夫な格子戸をはめた。その中でお上さんは、一ヶ月ばかり病気を養っていたが、或る夜、姿を消してしまった。格子戸には外から錠がかかっており、他に逃げ出せる隙間はない。然しお上さんはいないのだ。全く奇怪なことだった。――そしてお上さんの身体は、稲荷様のあの祈祷所の前に蹲ったまま、冷たくなっていたのである。
その話は、子に対する母の愛という色に塗られて、伝えられていた。
だが、違う、私に云わすれば違う。たとえ亡児に対する妄執から起ったものにせよ、亡児の幻影に惹かされたものにせよ、母の温かい愛というものとは、違うのだ。稲荷様の祈祷所の前に蹲った気持は、誘因は何であろうと、そんなものではない。殊に、座敷牢の格子の中に坐ってる気持は、そんなものではあるまい。
私は奇怪な経験をもっている。ともすると今でもそれが私を誘惑する。
動物
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