い貪婪な食欲を、私は驚嘆させられることになった。なお二三ヶ所、私たちは食い且つ飲んで歩いた。すっかり酔った。
 再会を約して小野を自動車に送りこんだ後、私は一人で暫く歩いた。何かしら胸の中に一杯鬱積したものがあった。だがそれを吐き出すべき言葉が見つからなかった。見つからないのは持ち合せがないからだ。稲荷様の前に蹲っても、私は九字の秘言きり、云うべき言葉も、祈るべき言葉も、呪うべき言葉さえも持たなかった。鉄格子につかまってそれを徒らに揺ぶるだけで、何になろう。私の前には、濁り淀んだ掘割りの水が、街路の灯を点々と映していた。それを眺めながら、私の頭には或る映像が蘇っていた。子供の頃、河童の見世物を見たことがあった。赤い毛をしょんぼり生やした頭が、大きな樽の水中に、ぽっかりと浮いてはまた沈んでいた。それは瓢箪に毛をうえ目鼻をつけたもので、水中から糸で引張っているのだと、後で知ったけれど、そう分ってみれば更に嫌だった。瓢箪ならば水に浮きたいだろう。それを、浮いたかと思うと糸で水底から引張りこむのだ。水に溺れる者の頭を、浮ぶひょうしに水中に突っ込むのと同じだ。その映像が、私自身に戻ってくる。
 
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