なかに、幽閉されてた彼等です。肺活量を大きくしなければいけません。始終コンクリートの平面の上を歩いているので、足が扁平足になろうとも、それは問題ではありません。地肌なんかは少しもない小学校です。始終四角や直線ばかりを見ているので、眼付が神経質にとんがろうとも、それは問題ではありません。山や森の見えない都会の真中です。頬の皮膚に色素がへって、営養不良めいて蒼ざめようとも、それは問題ではありません。紫外線の少い都会の大気です。ただ残された問題は、肺活量を大きくすることです。だから彼等は胸一杯に叫んでいます。何と甲《かん》高い暢々とした妖精的な声でしょう。それが渦巻いて盛上って、あたりに反響します。近所の人こそ迷惑です。だけどその近所にも、家屋の上に物干があります。人目につかないようにすべき筈の洗濯物が、家根の上に翩翻とひるがえっています。屋上の運動場は、児童の物干です。公然と恥ずるところのない物干です。悲しい哉、今日は日の光がさしません。濃霧が空まで蔽っています。その上、冷たい東北の微風が吹いています。だから彼等はなお力一杯に叫ぶのです。蔽いかぶさった灰色の低い空、深々と湛えたミルク色の海
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