ジャン・ヴァルジャンは、老コルネイユの用語を借りれば、「唖然《あぜん》とした。」そして眼前のことが果たして現実であるかを疑ったほどである。それは恐ろしい姿で現われてくる天意であり、テナルディエの形となって地から出て来る善良な天使であった。
 テナルディエは上衣の下に隠されてる大きなポケットに手をつき込み、一筋の綱を取り出して、それをジャン・ヴァルジャンに差し出した。
「さあ、」と彼は言った、「おまけにこの綱もつけてやらあな。」
「綱を何にするんだ。」
「石もいるだろうが、それは外にある。こわれ物がいっぱい積んであるんだ。」
「石を何にするんだ。」
「ばかだな。お前はそいつを川に投げ込むつもりだろう。すりゃあ石と綱とがいるじゃねえか。そうしなけりゃ水に浮いちまわあな。」
 ジャン・ヴァルジャンはその綱を取った。だれにでも、そういうふうにただ機械的に物を受け取ることがある。
 テナルディエは突然ある考えが浮かんだかのように指を鳴らした。
「ところで、お前はどうして向こうの泥孔《どろあな》を越してきたんだ。俺《おれ》にはとてもできねえ。ぷー、あまりいいにおいじゃねえな。」
 ちょっと黙
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