「山分けにしよう。」
その闇《やみ》の中にだれがいたのであろうか。絶望ほど夢に似たものはない。ジャン・ヴァルジャンは夢をみてるのだと思った。少しも足音は聞こえなかったのである。現実にそんなことがあり得るだろうか。彼は目をあげた。
一人の男が彼の前にいた。
男は労働服を着、足には何にもはかず、靴《くつ》を左手に持っていた。明らかに彼は、足音を立てないでジャン・ヴァルジャンの所まで来るために、靴をぬいだのだった。
ジャン・ヴァルジャンはその男がだれであるかを少しも惑わなかった。いかにも意外な邂逅《かいこう》ではあったが、見覚えがあった。テナルディエだった。
言わば突然目をさましたようなものだったが、ジャン・ヴァルジャンは危急になれており、意外の打撃をも瞬間に受け止めるように鍛えられていたので、直ちに冷静に返ることができた。それに第一、事情は更に険悪になり得るはずはなかった。困却もある程度におよべば、もはやそれ以上に大きくなり得ないものである。テナルディエが出てきたとて、その闇夜をいっそう暗くすることはできなかった。
しばし探り合いの時間が続いた。
テナルディエは右手を額の所
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