をもって知られし将軍、後者は卑俗な喜劇によく出て来る一種の道化役[#ここで割り注終わり])。パリーは荘厳な大都市たることを止むる時には常に狂愚な大都会となる。謝肉祭はその政治の一部分となっている。うち明けて言えば、パリーは好んで破廉恥な喜劇を受け容れる。もし主人があれば、その主人はただ一事をしか求めない、すなわちわれに泥《どろ》を塗ってくれと。ローマも同じ気質を持っていた。ローマはネロを愛していた。しかるにネロは巨大なる泥塗り人であった。
さて、前に言ったとおり、婚礼の行列が大通りの右側に止まった時偶然にも、仮面をつけた男女が房のようにかたまって乗り込んでるその大きな四輪馬車の一つが、大通りの左側に止まった。そして仮装馬車はちょうど新婦の馬車と大通りをはさんで向かい合った。
「おや!」と仮装のひとりが言った、「婚礼だ。」
「嘘《うそ》の婚礼だ。」と他のひとりが言った。「本物は俺《おれ》たちの方だ。」
そして、婚礼の列の方へ言葉をかけるには少し離れすぎていたし、また巡査の制止の声を恐れていたので、仮装のふたりは他の方を向いた。
すぐに、仮装馬車の者らはごく忙しくなった。群集が彼らに悪罵《あくば》の声をかけ始めた。それは仮装の者らに対する群集の愛撫である。今言葉をかわしたふたりも、仲間の者らといっしょに、衆人に立ち向かわなければならなかった。彼らは道化者のあらゆる武器を持っていたが、無数の人々の悪謔《あくぎゃく》を相手にして他を顧みるの余裕がなかった。そして仮装の者らと群集との間に激しく諧謔《かいぎゃく》がかわされた。
そのうちに、同じ馬車に乗っていた他の仮装のふたり、すなわちお爺《じい》さんのふうをしてばかに大きな黒髭《くろひげ》をつけてる鼻の大きなスペイン人と、黒ビロードの仮面をつけてるごく若いやせたはすっぱ娘とが、やはり婚礼の馬車に目を止めて、仲間の者らと道行人らとが互いに野次りかわしてる間に、低い声で話をした。
彼らのふたりの内緒話は、喧騒《けんそう》の声に包まれて他にもれなかった。去来する雨に、あけ放してある馬車の中はすっかりぬれていた。それに二月の風はまだ寒い。スペイン人に答えながら、首筋をあらわにしたはすっぱ娘の方は、震え笑いかつ咳《せき》をしていた。
その会話は次のとおりだった。([#ここから割り注]訳者注 以下の会話は隠語を交じえたものと想
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