ったかに従って、サン・タントアーヌ郭外からは、あるいは野蛮なる集団が現われあるいは勇壮なる徒党が現われた。
野蛮、この語について少しく弁明したい。革命の渾沌《こんとん》たる開闢《かいびゃく》の時において、ぼろをまとい、怒号し、荒れ回り、玄翁《げんのう》をふり上げ、鶴嘴《つるはし》をふりかざし、狼狽《ろうばい》せる旧パリーに飛びかかって毛髪を逆立てたそれらの者は、およそ何を欲していたのであるか? 圧制の終滅、暴政の終滅、専横の終滅、男子には仕事、子供には教育、婦人には社会の温情、自由、平等、友愛、万人のためにパン、万人のために思想、世界の楽園化、進歩、それを彼らは欲していたのである。そしてその聖なる善なるなつかしいもの、進歩を、彼らは我を忘れて極端まで駆られ、恐ろしき姿をし、半ば裸体で、手に棍棒《こんぼう》をつかみ、口からは咆吼《ほうこう》の声をほとばしらして、要求していたのである。それはまさしく野蛮人だった、しかし文明の野蛮人だったのである。
彼らは憤激して正義を宣言した。彼らは、たとい戦慄《せんりつ》と恐怖とをもってしてであろうとも、人類をしいて楽園のうちに押し入れることを欲した
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