派である。」しかし民衆は、バブーフの下にいっそうの過激派ジスケをかぎ出した。
その通行人は種々のことを言ったが、中にも次のような言葉があった。
「所有権をうち倒せ! 左党の反対は卑劣にして不信実である。口実を得ようと欲する時に左党は革命を説く。攻撃せられないためには民主派となり、戦わないためには王党派となる。共和党らは鳥の羽を持った獣である。共和党らを信ずるな、労働者諸君よ。」
「黙れ、間諜《スパイ》めが!」とひとりの労働者は叫んだ。
その一声で演説は終わりとなった。
また種々の不思議な事が起こっていた。
日の暮れ方、ひとりの労働者は掘割りの近くで、「りっぱな服装をしたひとりの男」に出会った。男は言った、「君、どこへ行くんだ?」労働者は答えた、「旦那《だんな》、わしはあなたをしりませんが。」「僕の方では君をよく知ってる」、と言って男はまたつけ加えた、「気づかわなくてもいい。僕は委員会の役員だ。君はどうも不安心だと皆から言われている。何かもらしはしないかと、いいか君は目をつけられてるんだぞ。」それから彼はその労働者に握手を与えて、立ち去りながら言った、「またすぐに会おう。」
警察の方では立ち聞きをしながら、もはや居酒屋の中ばかりではなく、往来ででも奇怪な対話を聞き取った。
「早く入れてもらえよ。」とひとりの織り物工が指物師《さしものし》に言った。
「なぜだい。」
「もうすぐに鉄砲を打たなきゃならねえからさ。」
ぼろをまとったふたりの通行人が、明らかにジャックリー([#ここから割り注]訳者注 百姓一揆[#ここで割り注終わり])めいた粗雑な注意すべき言葉をかわした。
「俺たちを治めてるなあだれだと思う?」
「フィリップさんさ。」
「いや、中流民たちだ。」
われわれがここにジャックリー[#「ジャックリー」に傍点]という言葉を悪い意味に取ってると思ってはまちがいである。ジャックリーの者らはすなわち貧しい者らである。しかるに飢えてる者らは権利を持っている。
またある時は、ふたりの通行人のひとりがもひとりのに言っていた、「攻撃のうまい計画ができてるんだ。」
トローヌ市門の広場の溝《みぞ》の中にうずくまってた四人の男の親しい会話から、次の言葉だけが聞き取られた。
「これからあれがパリーの中をうろつき回らねえようにするため、できるだけのことがされるんだ。」
あれ[
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