数名の労働者らは、コット街で太刀打ちを教えてる撃剣の先生のうちに集まっていた。木刀や杖や棒や竹刀などでできてる武器の装飾がしてあった。ある日彼らはその竹刀の鋒球を皆取り払った。ひとりの労働者は言った、「俺たちは二十五人だ[#「俺たちは二十五人だ」に傍点]。だがだれも俺を[#「だがだれも俺を」に傍点]木偶《でく》だと思いやがって目にも止めてくれねえ[#「だと思いやがって目にも止めてくれねえ」に傍点]。」その木偶は後にケニセーとなって名を現わした。
あらかじめ計画されてる事柄が、しだいに一種不思議な明らかな姿を取ってきた。戸口を掃除《そうじ》してたひとりの女が他の女に言った、「もうだいぶ前から一生懸命に弾薬が作られてるよ[#「もうだいぶ前から一生懸命に弾薬が作られてるよ」に傍点]。」また各県の国民軍に対する宣言が公然と大道で読まれていた。それらの宣言の一つには、酒商ブュルトー[#「酒商ブュルトー」に傍点]と署名してあった。
ある日、ルノアール市場《いちば》の一軒の酒屋の門口で、濃い頤髯《あごひげ》のあるイタリー音調のひとりの男が、車除石の上に上って、神通力を発散してるかと思われるような不思議な文を声高に読み立てていた。まわりには大勢の人が集まって喝采《かっさい》していた。群集を最も動かした部分は、そこだけぬき取って筆記された。――「吾人の主義は妨害せられ、吾人の宣言は引き裂かれ、ビラをはる吾人の仲間らは、待ち伏せられて獄に投ぜられたのである。」――「最近の綿糸の下落は、多くの中立者らを吾人の説に帰依せしめた。」――「民衆の未来は吾人のひそかな仲間のうちに成生しつつある。」――「提出せられたる条件はこうである、行動かもしくは反動か、革命かもしくは反革命か。なぜかなれば、現代においてはもはや無為も不動も信ずることはできないからである。民衆に味方するかもしくは民衆に反対するか、それが問題である。他に問題は一つもない。」――「吾人が諸君の意に満たざる日には、吾人を踏みつぶすがよい。しかしそれまでは吾人の行進を助けるがよい。」しかもすべてそれらのことは白昼公然と叫ばれたのである。
なおいっそう大胆な他の事実を、それが大胆なものであるだけに、民衆はよく推察していた。一八三二年四月四日、サント・マルグリット街の角にある車除石の上に、ひとりの通行人は上って叫んだ、「僕はバブーフ
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