の労働者は言った、「俺は寝もしねえや[#「俺は寝もしねえや」に傍点]、夜分に弾薬をこしらえてるんだ[#「夜分に弾薬をこしらえてるんだ」に傍点]。」時には「りっぱな服装をした中流民らしい」者らがやってきて、「一座をまごつかせ」ながら、「命令でもするような」様子をして、頭立った者[#「頭立った者」に傍点]らに握手をして、また出て行った。彼らは決して十分間以上と留まってることはなかった。人々は意味深い言葉を低い声でかわした、「謀は熟し[#「謀は熟し」に傍点]、事は完備している[#「事は完備している」に傍点]。」そこに居合わしたひとりの者の言葉をそのまま借りて言えば、「そこにいるすべての者ががやがやつぶやいていた。」興奮は非常なもので、ある日などは、酒場のまんなかでひとりの労働者が叫んだ、「俺たちには武器がねえ[#「俺たちには武器がねえ」に傍点]。」仲間のひとりはそれに答えた、「兵士らは持ってる[#「兵士らは持ってる」に傍点]。」かくて知らず知らずにイタリー軍に対するナポレオンの宣言をまねていた([#ここから割り注]訳者注 ナポレオンの宣言の一句―兵士らよ汝らは何物も有せずしかも敵はすべてを有せり[#ここで割り注終わり])。一報告はつけ加えて言っている、「何かいっそう秘密なことの場合には、彼らはその場所でそれを伝え合いはしなかった。」しかし、前のようなことを公然と言った後で何を隠すべきものがあったかほとんど了解に苦しむところである。
 集合は時として時日が定まっていた。ある時には決して八人から十人までを越すことがなく、集まる者も常に同じ人であった。またある時には、だれでもはいることができ、部屋《へや》はいっぱいになって立っていなければならなかった。ある者は心酔と熱情とをもってやってき、ある者は仕事に出かける通り道[#「仕事に出かける通り道」に傍点]だからやってきた。革命の時と同じく、それらの居酒屋のうちには愛国主義の女らがいて、新しくやって来る者らを抱擁した。
 その他種々の意味深い事柄も現われていた。
 ひとりの男が酒場にはいってきて、酒を飲み、そして出てゆく時に言った、「おい御亭主[#「おい御亭主」に傍点]、代は革命が払ってくれるよ[#「代は革命が払ってくれるよ」に傍点]。」
 シャロンヌ街と向き合ったある酒場では、革命の役員らが選ばれた。投票は帽子の中に投ぜられた。

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