そかな調子でそれらのことを嘲笑《あざわら》った。
 ある何か半ば非公式の機会に、伯爵(この上院議員)とミリエル氏とは知事の家で晩餐《ばんさん》を共にすることになった。食後のお茶の時に、上院議員は少し上きげんでしかも品位をくずさずに言い出した。
「さあ司教さん、少し論じようではないですか。上院議員と司教とはまともには妙に顔を見合わせ悪《にく》いものだが、われわれはお互いに先覚者である。私は君にこれから一つ打ち明けて話をしよう。私は私の哲学を持っている。」
「なるほどもっともです。」と司教は答えた。「人は自分のこしらえた哲学の上に寝ます。あなたは緋服《ひふく》の寝床にねていられますからな。」
 議員はそれに元気を得て言った。
「まあお互いにいい児《こ》になるとしよう。」
「いやいい悪魔にでも。」と司教は言った。
「私はあえて言うが、」と議員は言った、「アルジャン公爵やピロンやホッブスやネージョン氏など決して野人《やじん》ではないです。私はこれら哲学者たちの金装の著書を書棚に持っているが。」
「伯爵、それはあなたと同様な人たちです。」と司教は口を入れた。
 上院議員は言葉を続けた。
「私はデ
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